菅原 弘樹

松島湾エリア在住
菅原 弘樹
Sugawara Hiroki
プロフィール
多賀城市出身。宮城県の文化財保護課を経て2000年から奥松島縄文村歴史資料館学芸員。2011年から同館館長。主な研究テーマは縄文時代の生業や食生活。

地域を掘り下げる「つながる湾」の姿勢が、
刺激的で面白い表現を生んでいる。

縄文時代の研究者として土地の歴史を掘り起こし現代的な意義を問い続ける奥松島縄文村歴史資料館(※1、以下「縄文村」)の菅原弘樹館長は、折に触れて「つながる湾プロジェクト」の活動に重要な視点を提供してきた。菅原さんに「つながる湾」の活動の印象を聞いた。

地域の文化を共有する手法に驚いた

加藤
菅原さんはさまざまな形で「つながる湾プロジェクト」の活動をサポートしてくれていますが、「つながる湾」に初めて関わったのはいつですか?
菅原 弘樹
2013年12月、ビルドスペース※2であった「勉強会」の講師として話をしたのが最初です※3。それ以降、2014年12月の「海辺の記憶をたどる旅展」や2019年2月の「文化交流市場」のトークイベントでも話をする機会がありました。
2019年2月の「文化交流市場」のトークイベントで松島湾の地形について話す菅原さん
2019年2月の「文化交流市場」のトークイベントで松島湾の地形について話す菅原さん(壇上左端)
加藤
ほかにも菅原さんには、私たちが発行する「図鑑」※4の制作にあたって多くの助言をいただいています。また「文化交流市場」では縄文村としてさまざまな体験活動を実施していただいています※1。「つながる湾」の活動にどんな印象をお持ちでしょうか。
菅原 弘樹
初めて勉強会で話したとき、若い人たちが集まっていること、みんなで地域を面白がって勉強していこうという雰囲気があることに驚きました。私は研究者として、また縄文村の事業を通して、地域の歴史を調べて発信したいのですが、講演会や勉強会をやっても若い参加者は少ないんです。
加藤
縄文村では家族向けの体験活動などが多い印象ですが。
菅原 弘樹
たしかに私たちも、体験を通して、子供たちはもちろんその親世代にも興味を持ってもらえるように意識しています。でも「つながる湾」の活動は、私たちのような研究者や施設職員にはない発想で動いているから、若い人たちが面白がれるんだと思います。
加藤
具体的にどのような場面でそう感じますか?
菅原 弘樹
たとえば船で島を巡るツアーとか※5、寒風沢島でカレーを食べて島の文化を感じるとか※6。地域の面白みを味わう手法が、私たちから見ると「空中戦」なんですよね。それも、ただ思いつきで突飛なことをやるのではなく、地域の歴史や文化をちゃんと掘り下げて、何を表現したいのか、なぜその手法でやるのか、という考察を積み上げたうえでの「空中戦」。だから面白い。
加藤
なるほど。
菅原 弘樹
特に「そらあみ」※7は印象的でした。網針を使って網を編んだり直したり、という行為は海沿いの地域では昔から見られましたが、今はほとんどなくなり、いずれ過去のものになってしまう。その行為がこの地域の暮らしの一部であったことを人々の記憶に残していくためには、古い網針を文化財として保存、展示することももちろん必要です。だけど「そらあみ」のように、実際に網針を使っていろんな色の網を編む経験をすれば参加者の記憶に絶対残りますよね。そんなふうに地域の文化をアート体験に変換する発想がすごく面白いと思いました。
2014年の「そらあみ〜松島〜」で、網針を用いて網を編む参加者
2014年の「そらあみ〜松島〜」で、網針を用いて網を編む参加者
加藤
私たちも、アートの力をあらためて感じることは多いです。
菅原 弘樹
そしてアートが生きるのはやっぱり、地域の歴史や文化を深く掘り下げたうえで表現しようとしているから。「図鑑」もそうですよね。「ハゼ図鑑」、「牡蠣図鑑」、「船図鑑」、そして「遺跡図鑑」。作っている人たちがそれぞれの目線で地域を面白がっているからこそ、この土地ならではのテーマ設定になる。内容も、きちんと取材・勉強して書かれているからわかりやすくて面白いし、イラストもただの挿絵じゃなくて、読者が具体的なイメージを持ちやすいように描かれています。

湾域全体を巻き込んだ取り組みに期待

加藤
今後「つながる湾」にはどのような展開がありうるでしょうか。
菅原 弘樹
地域の文化、魅力をどう引き出してどう表現するのか、もっと色々な「空中戦」に期待しちゃいますよね。松島湾エリアの中でも塩竈、浦戸、多賀城に関する企画が多いのが現状だと思うので、東松島のほうまで巻き込んだ形の取り組みも増やして、本当に松島湾全体をつなぐ「つながる湾」として活動してほしいなと思います。
加藤
それは、東松島の縄文村と一緒に何をやるか、という話にもなってきますね。
菅原 弘樹
そうですね。我々は資料館としての得意分野があるから、「つながる湾」の人たちに新しい視点や資料を提供できるだろうし、我々のほうも「つながる湾」の手法にもっと触れることで、表現の幅が広がるのではないかと思います。
加藤
ほかに、「つながる湾」の今後の活動に対するアドバイスはありますか。
菅原 弘樹
行政との連携を今以上に意識するといいかもしれないですね。役所にも、地域の面白みを感じていて、それをどう活用したらいいか、と考えている人がいる。そういう人と一緒に動くことで、さらに発展的なことができる可能性はあると思います。
加藤
たしかに、菅原さんのように「つながる湾」の活動に意義を感じて市町職員の立場で協力してくださる方が他にもいるかもしれません。たとえば3市3町の文化財担当の職員さんたちが協働して地域文化の魅力を発信する活動を続けていますが※8、そのような事業との連携の可能性も探れそうです。
菅原 弘樹
そうですね。「つながる湾」が核になって松島湾沿岸の市町が連携できたら、いろんな面白いことができるんじゃないでしょうか。
<脚注>
  • ※1 東松島市の宮戸島にある文化施設。里浜貝塚の出土資料などを展示するほか、「縄文の塩づくり」「縄文の漁り」などの体験活動を積極的に実施している。「つながる湾」の「文化交流市場」では「縄文写真館」「ベンケイガイのブレスレッドづくり」などの体験プログラムを開講。
    ・奥松島縄文村歴史資料館ホームページhttp://www.satohama-jomon.jp/index.html
  • ※2 「つながる湾プロジェクト運営委員会」のメンバーである高田彩が2006年に塩竈市港町に開設したアートギャラリー。
    ・ビルドスペースホームページhttp://birdoflugas.com
  • ※3 菅原さんが講師を務めたのは2013年12月開催の「松島湾沿岸の貝塚群と塩づくり」。
  • ※4 2016年度以降、「つながる湾プロジェクト」が制作・発行した「松島湾のハゼ図鑑」「松島湾の牡蠣図鑑」「松島湾の船図鑑」「松島湾の遺跡図鑑」。
    ・「松島湾の遺跡図鑑」https://tarl.jp/library/output/2019/2019_astt_iseki/
  • ※5 2014年10月12日開催の「湾の記憶ツーリズム」のこと。
    ・湾の記憶ツーリズムhttps://tsunagaruwan.com/wan-memory
  • ※6 2014年12月20日開催の「浦戸食堂プロジェクト」のこと。
    ・浦戸食堂プロジェクトhttps://tsunagaruwan.com/urato-shokudo
  • ※7 「そらあみ」はアーティストの五十嵐靖晃氏が2011年から続けているアートプロジェクト。「つながる湾プロジェクト」のプログラムとしては、2013年に浦戸諸島で、2014年に松島で、2015年に多賀城で実施した。
    ・そらあみhttps://tsunagaruwan.com/soraami
    ・五十嵐靖晃氏ホームページhttp://igayasu.com/project/sora_ami/
  • ※8 塩竈、七ヶ浜、多賀城、松島、利府の2市3町の合同で実施している「土器作り体験」や、東松島市を加えた3市3町が合同で開催する「むすび丸春日パーキングエリア歴史体験まつり」などを指す。

区切り

インタビュー日:2020年11月6日
インタビュー・まとめ:加藤貴伸

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