海からみた日本列島

海からみた日本列島

勉強会開催日:2013年8月29日

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今でこそ、日本中に道路と鉄道網が張りめぐらされ、海外との行き来は飛行機が主流になっていますが、原初の世界では海運が主要な交通手段であり、島国である日本は海の文化が色濃い地域だったことが考えられます。水域に暮らす人々を研究している山田創平さんから、「海側から日本列島を見る」ことを軸に、日本の海洋文化について学びました。

山田さんの文献研究からは、これまでとは違った歴史や価値観が見えてきます。たとえばある漁村では、漁で獲ってきた魚はまず初めに家族や地域の人々に分けてから市場に出していたというのです。人々との分かち合い、いわゆる「資源の分配」がごく日常的に行われていたということ。そこには、 近代以降の国家が持つ階層、征服、資本主義といった特質とは相反する価値観があったことがうかがい知れます。

また、民俗学者の柳田國男氏が示唆したように、日本の土地を国の領土としてではなく、海流の流れの中に位置する列島と見るとより様々なことが見えてくるという視点も、興味深いものでした。山田さんは、文化は黒潮に乗って南から北へ流れてきており、その流れを受けて日本文化は形成されている、という見解を提示されました。

山田さんと文献に記された絵や写真を見ながら、日本と東南アジアに多くの共通点があることを確認しました。各地にみられる船を競わせる行事や、船の形の共通点、日本誕生の神話とされる「イザナギとイザナミ」の話と似た物語がパプアニューギニアの逸話にもあることなど、黒潮による文化の形成を裏付けるような資料が並びました。ほかにも、日本の海洋文化の特徴として①天体への信仰 ②製塩、製鉄などの海洋民の生業 ③人は海の底に沈んでいくという死生観 が挙げられ、地域が違えど海に暮らす人々にはある共通した文化があることを学びました。

この日の学びから、塩釜の「藻塩焼き神事」に代表される塩づくりや、山田さんが見つけたという塩釜神社の石碑に刻まれている太陽、月、星のモチーフも、この海洋文化と何らかの関係があるように思えてなりませんでした。海に暮らす人々の生活を見ていくと、地域を超えた海づたいの文化があることに気づきます。「海の視点」から日本の文化を新たに紐解きながら、視野を広げて地域を見ていくことの面白さを体感することができた勉強会でした。

まとめ:相原綾乃 / イラスト:本田千華

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講師紹介
講師:山田創平さん(社会学者)
山田創平
専門は地域研究(芸術と地域、 マイノリティと地域、都市空間論)。京都精華大学人文学部専任講師。NPO法人アートNPOリンク理事、大阪市現代芸術創造事業実行委員、HAPS実行委員などを兼任。また現代美術作家のブブ・ド・ラ・マドレーヌらと共にインスタレーションやパフォーマンスの制作・発表もしている。世界各地の水辺をめぐり、水を切り口に新しい社会のあり方を模索している。