鈴木 邦明

松島湾エリア在住
鈴木 邦明
Suzuki Kuniaki
プロフィール
岩手県水沢市(現・奥州市)出身。山形県の大学を卒業後、宮城県の企業への就職を機に利府町へ移住。その後、七ヶ浜町を経て、2001年から多賀城市在住。2011年からノルディックウォーキングの普及活動を続けている。

地域に対する理解が深まるにつれ、
風景の見え方が変わった。

「郷土ウォーカー」の肩書きをもち、ノルディックウォーキング※1のインストラクターとして松島湾エリアを中心に活動する鈴木邦明さんは、2015年、地域の歴史や文化を学ぶため、「つながる湾プロジェクト」の活動に参加した。地域を知るにつれて、鈴木さんの視点に大きな変化が生まれた。

自分の暮らす地域のことを知りたいと思った

加藤
鈴木さんが「つながる湾プロジェクト」の活動に頻繁に参加していたのは2015年ごろのことですね。どんなきっかけで参加するようになったのでしょうか。
鈴木 邦明
私は2011年からノルディックウォーキングの普及活動をしています。活動場所としては松島を中心に多賀城や塩竈を歩くことが多く、参加者のみなさんに歩き方を指導する際に、この地域のことも紹介できたらいいなと思っていました。風景を見たり、歴史を感じたりしながら歩くと楽しいし、知らず知らずのうちに長い距離を歩けるんです。それで、2015年ごろは、地域の歴史や文化を学べる機会があれば積極的に参加していました。その頃に「つながる湾」のこともインターネットで知り、勉強会に参加しました。
加藤
なるほど。「つながる湾」の勉強会の中で印象に残っている内容はありますか?
鈴木 邦明
新野一浩さんの回※2で「松島の多島海の景色は昔の人にとって『この世のものとは思えない』ほど美しく、『極楽浄土に近い場所』と捉えられ、霊場としての性格を持った」というところが印象に残っています。私たちがいま松島の景色を見て「ハッとする」ことがあるのはそういうことなんだ、と納得しました。
新野一浩さん(瑞巌寺学芸員)を講師に迎えた勉強会
新野一浩さん(瑞巌寺学芸員)を講師に迎えた勉強会(2015年7月14日)

単純作業でアートに参加できる「そらあみ」

加藤
2015年度、鈴木さんは勉強会だけでなく夏の「そらあみ 〜多賀城〜※3」にも積極的に参加していたそうですね。
鈴木 邦明
過去の「そらあみ」の写真をインターネットで見て、「何を表現しているのだろう」と興味が湧きました。好きな時間に参加できるということだったので思い切って行ってみました。
加藤
結果的に何日か続けて作業に参加したということは、「そらあみ」に何かの意義や価値を感じたということでしょうか。
鈴木 邦明
楽しかったんですよね。単純作業を繰り返していると無心になれるし、作業したぶんだけ網が伸びている。それから、間違ったら糸をほどいてやり直せるというのもいい。それまで私は「アート」とよばれるものに近寄りがたいイメージを持っていたんです。失敗したら取り返しがつかない、みたいな。でも「そらあみ」は誰でも参加できて、失敗してもやり直せる。
加藤
編むという単純作業でアートに参加できる。
鈴木 邦明
そう。それに、漁師さんが実際に使っている網と同じものを、漁師さんと同じ道具を使って同じ方法で編む、というのもいいですよね。漁師さんもこうやって編んだり、修理してるんだな、って、生業を身近に感じながら参加できました。
加藤
編みながら、「アート」を感じていましたか?
鈴木 邦明
うーん、今思うと、編んでいるときはやっぱり単純作業でしたね。網ができあがっていくのがただただ楽しかった。「あ、アートだ」って感じたのは、空に掲げられた網を見たときです。作っていたのは漁網という「道具」だったはずなのに、アート作品の一部を作った実感を持てた。自分が編んだのはあの辺かな、と思いながら。
加藤
そのときの感覚をもう少し教えてください。それが「道具」ではなく「アート」に見えた理由というか。
鈴木 邦明
いつも見ている多賀城政庁跡が全然違った景色に見えたんですよね。網を通して向こう側を見ると別のものが見えてくる感覚。今は痕跡しか残っていないけど、ここはかつて東北の中心地で、大きな建物があって、たくさんの人が行き来して、みたいな光景が思い浮かんだんです。それ以降も、政庁跡に限らず、松島、塩竈などを歩くとき、同じ道を昔の人も歩いていたことや、その場所で人々が暮らしていたことなどを想像しながら歩くようになりました。
「2015そらあみ −多賀城− 」の様子
「2015そらあみ −多賀城− 」の様子(2015年8月)
加藤
地域の見え方が変わったのですね。
鈴木 邦明
はい。見えないものを想像する楽しさを覚えた気がします。それは、「そらあみ」の体験はもちろん、同じ時期に勉強会などで地域のことをたくさん知ったからでもあります。たとえば新野さんの勉強会のあとで、松島湾の島々を見たときに、かつてその場所で修行していた高僧の姿を想像するようになりました。
加藤
なるほど。

知るほどに、この地域を好きになった

加藤
2015年ごろに「つながる湾」やその他の活動を通じて地域について学んだことは、その後の活動に変化をもたらしたのでしょうか。
鈴木 邦明
そうですね。ノルディックウォーキングの活動中、歩いている土地の魅力について仲間に話したりとか、自分の引き出しが増えたと思います。
加藤
普段の暮らし方や考え方には変化がありましたか?
鈴木 邦明
自分が住んでいるこの地域を好きになりました。ここにある文化や産業を大切に思うようになったというか。そして、地域のことを学ぼうとしている自分のことも「いいね」って思えるようになった気がします。自信がついたということなのかな。だから、学んだことを他の人にも伝えたいと思えるんだと思います。
加藤
大きな変化ですね。
鈴木 邦明
それから、ここ数年で気づいたことがもう一つあります。私は以前、東北が一番だと思っていたんです。「関東とかに住むより、東北の方がいいでしょ」って(笑)。でも自分がこの地域の魅力を知るにつれ、別の場所にもそれぞれに魅力があるはずだ、と思うようになったんです。私がこの地域を「良い」と思っているということは、他の地域に住んでいる人にとってはその地域が「良い」んだろうな、って。
加藤
人が住んでいるところは、どこもそれぞれに「良い」はず。
鈴木 邦明
はい。そう思います。
加藤
その後、地域に対する興味は持ち続けていますか?
鈴木 邦明
今はノルディックウォーキングの普及活動の方に時間を割いているので「つながる湾」の活動やほかの勉強会などにもあまり行けていないのですが、インターネットなどで情報を取り入れるようにしています。「つながる湾」の取り組みもチェックしていますよ。
<脚注>
  • ※1 両手に持ったポールを使って歩くエクササイズ。
  • ※2 「中世の人々の想いを知る -松島雄島のはなし- 」(2015年7月14日)https://tsunagaruwan.com/team-wan-study/matsushima-osjima
  • ※3 「そらあみ」はアーティストの五十嵐靖晃氏が2011年から続けているアートプロジェクト。「つながる湾プロジェクト」のプログラムとしては、2013年に浦戸諸島で、2014年に松島で、2015年に多賀城で実施した。https://tsunagaruwan.com/soraami

区切り

インタビュー日:2020年8月4日
インタビュー・まとめ:加藤貴伸

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